放射線の基礎
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2. 放射能と放射線はどう違う?

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言いますが、正体の分からないものは薄気味が悪く、なんとも恐ろしいものです。放射能・放射線が「枯れ尾花」にならないために、放射能・放射線を正しく理解してもらう糸口として、基礎の基礎になる知識を少し説明します。
 放射能と放射線は別もの
 似た響きを持つ言葉ゆえに、このふたつは、混乱して使用されることが多いのです。この二つの関係をわかりやすく説明すると、次のようになります。


A. 放射能とは‥‥放射線を出す能力

 具体的には、不安定な原子核をもつ元素(放射性同位体)が、安定な原子核構造に変化していくために余剰のエネルギーを放射線として放出し、自分自身は安定な原子核を持った元素に変わっていく現象(放射性壊変)のことを示します。

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図1:放射線物質

 放射性同位体

 原子は、原子核と軌道電子からできています。
 原子核は陽子と中性子とからできています。陽子の個数(原子番号と同じ)をZ、中性子の個数をN、質量数をZ + Nで表します。元素名は陽子の個数(原子番号と同じ)Zのみで決まります。同じ元素で、中性子の数が異なるものを同位体と言います。
 同位体のうちで、放射能を持つものを放射性同位体と言います。

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図2:放射性同位体

 例えば、窒素は陽子7個から成る元素です。一般に窒素といわれるものは、中性子の数が7個です。それに対して、中性子の数が6個の同位体は、窒素13と呼び、13Nと表します。

 放射性壊変

 原子核が放射線を放出して別の種類の原子核に変わることを放射性壊変(放射性崩壊)又は壊変(崩壊)と言います。個々の壊変は確率現象です。

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図3:放射性壊変

アルファ(α)壊変 質量数の大きな原子核において、原子核からα線を放出し、壊変前に比べて原子番号が2、質量数が4小さくなる現象です。
ベータ(β)壊変 安定な原子核と比べて中性子が多すぎる場合、中性子がβ線を放出して、陽子に変わり、壊変前に比べて原子番号が1大きくなるが、質量数は変化しません。
ガンマ(γ) 線の放出 α壊変、β壊変が起きた後の、エネルギー的に不安定な励起状態の原子核が安定な状態になるために余剰のエネルギーをγ線の形で放出する現象。

 半減期

 放射性壊変を繰り返すと、元の形の原子核を持った原子の数がどんどん減って行きます。最初にあった原子の数が、壊変によって半分になるまでにかかる時間を半減期と言います。要するに半減期の短いものは早く放射能がなくなっていくと、まずは理解して下さい。図は半減期が4日の場合の例を示しています。

放射能の強さを表す単位について
  ベクレル(Bq):1秒間に放射性壊変する原子の数

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図4:半減期


B. 放射線とは

 放射線とは、全スペクトルにわたる波長の電磁波及び原子粒子、すべての原子構成粒子の流れのことをいい、可視光線も放射線のひとつです。下の図は、電磁波の分類を示したものです。放射線は、電離放射線と非電離放射線に類別されます。日常の会話に出てくる“放射線”は、電離放射線を意味していることがほとんどです。ここで扱うのは、電離放射線です。

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図5:電磁波の分類

 電離放射線の種類

電磁波

ガンマ線 原子核中の核子(陽子や中性子)のエネルギー状態の変化に伴って原子核内から放出される電磁波
エックス線 特性エックス線:原子中の軌道電子のエネルギー状態の変化に伴って放出される電磁波
制動エックス線:電子や陽電子などが原子核の近くを通った時に大きな作用を受けた時に放出される電磁波

粒子

電気を持つ粒子
電子線 ベータ(電子)線 原子核から放出される電子でマイナスの電気を持つ
陽電子線 原子核から放出される陽電子でプラスの電気を持った電子
アルファ線 アルファ線 原子核から放出されるヘリウム原子核
陽子線 陽子線 加速器でつくられる高速の陽子
(その他)
重陽子線 加速器でつくられる高速の粒子で中性子1個と陽子1個より成る
重粒子線 種々の原子や分子から軌道電子をはぎ取ったり、付け加えたりして電気を持たせた上で、加速器で加速したもの
中間子線など
電気を持たない粒子
中性子線 中性子線 主に原子炉や加速器を用いた原子核反応で作った中性子

 放射線の単位について

Gy (グレイ) :物質が吸収した放射線のエネルギー
 1Gy = 1kg の物質が、1J のエネルギーを吸収したときの量
Sv (シーベルト) : 放射線防護のための単位   1Sv = 1,000mSv
 1Sv = 人体は放射線の種類や体内の組織により放射線による影響の程度が異なるため、これらの違いを考慮に入れ、Gyに線種や組織ごとの係数を掛けて補正したもの
係数:エックス線、ガンマ線、ベータ線は1 、アルファ線は20、 中性子線は5~20
 例:X線の場合、1Gyを全身に均等に浴びると1Sv被ばくしたことになる。
 この場合、1Sv = 1Gy X 1(係数:エックス線は1)

 電離放射線の性質

物質との相互作用と透過作用に大別できます。

物質との相互作用
その1 アルファ線とベータ線の場合
電離: 物質を構成する原子内の電子を原子の外へ弾き飛ばすことによって、飛ばされた電子は自由電子となり原子自体は活性なイオンになること。

α線、β線のように電荷を持つ放射線は直接電離作用を起こすことができるので直接電離放射線。X線、γ線、中性子線のように電荷を持たない放射線は、物質との相互作用により自らは消滅し、その時に発生した二次電子にエネルギーを付与します。二次電子が電離作用を起こすので、間接電離放射線。

励起: 物質を構成する原子内の電子が、当たった放射線のエネルギーを吸収して現在の軌道より外側のよりエネルギー状態の高い軌道へ乗り移ること。
電離と違い、原子の外へ飛び出すほどのエネルギーを電子が吸収していない状態。
アルファ線とベータ線を比べてみると
電荷の量 アルファ線はベータ線の2倍
質量 アルファ線はベータ線の約7000倍
物質の中での進み方 アルファ線は、直線的で短い 電離の起こし方が密
ベータ線は、ジグザグで長い 電離の起こし方が疎
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図7:アルファ線とベータ線の相互作用

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図8:アルファ線とベータ線の比較

その2 ガンマ線、エックス線の場合

 ガンマ線、エックス線は2面性があります。
 ガンマ線、エックス線は電磁波つまり光の一種です。光には、波動性と粒子性があります。従って、ガンマ線やエックス線を光子(こうし)photonと言います。
 ガンマ線、エックス線と物質との相互作用は、粒子性によると考えることで理解できます。相互作用をしなかったガンマ線、エックス線は通り抜けていきます。物質が同じであればγ線のエネルギーが高くなるほどに発生率は光電効果<コンプトン効果<電子対生成の順となります。

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図9:ガンマ線、エックス線の相互作用

その3 中性子の場合

 非荷電粒子なので軌道電子との相互作用はしません。原子核との衝突を起こします。水素原子を含む物質で良く止まるので、遮蔽には水、パラフィンを使います。

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図10:中性子の相互作用

透過作用
α線、β線 荷電粒子 物質の軌道電子と衝突
γ線、X線 光(電磁波) 物質の軌道電子と衝突
中性子 非荷電粒子 物質の原子核と衝突
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図11:透過作用