「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言いますが、正体の分からないものは薄気味が悪く、なんとも恐ろしいものです。放射能・放射線が「枯れ尾花」にならないために、放射能・放射線を正しく理解してもらう糸口として、基礎の基礎になる知識を少し説明します。
放射能と放射線は別もの
似た響きを持つ言葉ゆえに、このふたつは、混乱して使用されることが多いのです。この二つの関係をわかりやすく説明すると、次のようになります。
具体的には、不安定な原子核をもつ元素(放射性同位体)が、安定な原子核構造に変化していくために余剰のエネルギーを放射線として放出し、自分自身は安定な原子核を持った元素に変わっていく現象(放射性壊変)のことを示します。
原子核が放射線を放出して別の種類の原子核に変わることを放射性壊変(放射性崩壊)又は壊変(崩壊)と言います。個々の壊変は確率現象です。
放射線とは、全スペクトルにわたる波長の電磁波及び原子粒子、すべての原子構成粒子の流れのことをいい、可視光線も放射線のひとつです。下の図は、電磁波の分類を示したものです。放射線は、電離放射線と非電離放射線に類別されます。日常の会話に出てくる“放射線”は、電離放射線を意味していることがほとんどです。ここで扱うのは、電離放射線です。
ガンマ線 | 原子核中の核子(陽子や中性子)のエネルギー状態の変化に伴って原子核内から放出される電磁波 |
エックス線 | 特性エックス線:原子中の軌道電子のエネルギー状態の変化に伴って放出される電磁波 |
制動エックス線:電子や陽電子などが原子核の近くを通った時に大きな作用を受けた時に放出される電磁波 |
電気を持つ粒子 | |||||||||||||||||||||||||||||
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電気を持たない粒子 | |||||||||||||||||||||||||||||
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Gy (グレイ) :物質が吸収した放射線のエネルギー
1Gy = 1kg の物質が、1J のエネルギーを吸収したときの量
Sv (シーベルト) : 放射線防護のための単位 1Sv = 1,000mSv
1Sv = 人体は放射線の種類や体内の組織により放射線による影響の程度が異なるため、これらの違いを考慮に入れ、Gyに線種や組織ごとの係数を掛けて補正したもの
係数:エックス線、ガンマ線、ベータ線は1 、アルファ線は20、 中性子線は5~20
例:X線の場合、1Gyを全身に均等に浴びると1Sv被ばくしたことになる。
この場合、1Sv = 1Gy X 1(係数:エックス線は1)
物質との相互作用と透過作用に大別できます。
電離: | 物質を構成する原子内の電子を原子の外へ弾き飛ばすことによって、飛ばされた電子は自由電子となり原子自体は活性なイオンになること。 |
α線、β線のように電荷を持つ放射線は直接電離作用を起こすことができるので直接電離放射線。X線、γ線、中性子線のように電荷を持たない放射線は、物質との相互作用により自らは消滅し、その時に発生した二次電子にエネルギーを付与します。二次電子が電離作用を起こすので、間接電離放射線。
励起: |
物質を構成する原子内の電子が、当たった放射線のエネルギーを吸収して現在の軌道より外側のよりエネルギー状態の高い軌道へ乗り移ること。 電離と違い、原子の外へ飛び出すほどのエネルギーを電子が吸収していない状態。 |
電荷の量 | : | アルファ線はベータ線の2倍 |
質量 | : | アルファ線はベータ線の約7000倍 |
物質の中での進み方 | : | アルファ線は、直線的で短い 電離の起こし方が密 |
ベータ線は、ジグザグで長い 電離の起こし方が疎 |
ガンマ線、エックス線は2面性があります。
ガンマ線、エックス線は電磁波つまり光の一種です。光には、波動性と粒子性があります。従って、ガンマ線やエックス線を光子(こうし)photonと言います。
ガンマ線、エックス線と物質との相互作用は、粒子性によると考えることで理解できます。相互作用をしなかったガンマ線、エックス線は通り抜けていきます。物質が同じであればγ線のエネルギーが高くなるほどに発生率は光電効果<コンプトン効果<電子対生成の順となります。