放射線の基礎
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3. 身の回りの放射線と被ばく

 生活環境中の放射線による被ばく

 私たちは、毎日の生活の中で日常的に放射線を浴びています。からだの外側での放射線による被ばくを外部被ばく、からだの内側での放射線による被ばくを内部被ばくと言います。
 太古の昔から、地球上の生物は、からだの内と外から自然放射線を浴びてきました。図のように、私たちが現在、被ばくしている放射線は、自然放射線と医療用の放射線に代表される人工放射線に大きくわけることができます。

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図1:人は年間でどのくらい放射線を
うけているのか?

 1年間に環境中の放射線により被ばくする線量

 自然放射線以外に、日常生活で浴びる人工の放射線(主に医療目的で使用される放射線)による放射線を加えると、世界平均で、一人当たり年間約3.2ミリシーベルトの放射線をあびています。日本では、世界平均より高く、約3.8ミリシーベルトの放射線をあびています。
 日本の医療目的で使用される放射線による被ばく線量は、世界平均に比べて多いように見受けられます。この理由として、日本では、放射線を利用したCTなどの高度な検査機器が広く普及していること、同様に放射線を利用した癌などの治療方法についても広く普及していることに加え、健康保険制度が充実しているために、国民全体が高度な医療を受けることができる傾向にあるためと考えられます。
 医療被ばくは、その医療が患者にとって有益であることが前提であり、使用する放射線の量は正確に計算された適正な量が確実に制御されて使われています。決して必要以上に使用されているわけではありません。世界においても、先進諸国では、医療目的の人工放射線による被ばく線量が多い傾向にあります。

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図2:1年間に環境中の放射線により
被ばくする線量

 自然放射線による被ばく

 それでは、自然放射線による被ばくについて、少し詳しく見ていきましょう。自然放射線は、宇宙(宇宙線)、大地、空気、食物からに大別できます。自然放射線からの被ばくは世界平均で、一人当たり年間2.4ミリシーベルト(mSv)、日本では、世界平均よりやや低く約1.5 mSvです。

日本の自然放射線による被ばく線量の地域差(単位:mSv)

宇宙線、大地、食物由来の自然放射線による被ばく線量
空気(呼気)由来のものは含まない

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図3:日本全体の平均

 宇宙線

 太陽や銀河系から地球へは絶え間なく宇宙からの放射線(高エネルギーの陽子が全体の90%強)が降り注いでいます。その多くは、地球の磁場によって跳ね返されますが、磁場を通り抜けた宇宙線は窒素、酸素などの原子と衝突して消滅します。その際に、中性子、ミュー粒子、パイ粒子、トリチウム(3H)、ベリリウム(7Be)などが生成します。
 宇宙線の量は、高度が上がるほど宇宙線をさえぎる大気の層が薄くなるために増えます。日本人の多くが暮らしている海抜 0-400m の宇宙線の量は、富士山頂の1/3程度です。また、北極や南極のような緯度の高い場所では、磁場の影響が小さいため、赤道付近の緯度の低い場所よりも宇宙線が入りやすく、宇宙線の量が多くなります。
 つまり、緯度が同じなら海抜の高いところの方が、海抜が同じなら緯度の高いところの方が宇宙線による被ばく線量が高くなります。

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図4:宇宙線

 大地からの放射線

 日本の大地からの放射線による1年間の平均外部被ばく線量は0.38mSvです。大地からの放射線は、土壌や岩石に含まれる放射性のカリウム(40K)、ウラン(238U、235U)、トリウム(232Th)、およびウランやトリウムが壊変して生成されるタリウム(208T1)などから出るガンマ線です。
 日本では、カリウムやウランなどをたくさん含んでいる花崗岩地帯が、国土の西側に幅広く分布しているため、地表ガンマ線の線量分布は、西が高く、東が低くなる傾向があります。
 世界でも大地からのガンマ線の線量分布は地域による差があります。例えば、インドのケララでは1年間の平均外部被ばく線量が3.8mSv、ブラジルのガラパリでは5.5mSv、イランのラムサールでは10.2mSvです。いずれも日本の平均値の10倍以上です。しかし、それら高線量の地域に住む人々の発ガン率が、日本人よりも高いということはありません。

 空気中のラドンからの放射線

 前項で大地にはウランが含まれると記述しましたが、ラドン(222Rn)は、ウラン(238U)が下に示したように、何度も放射性壊変を繰り返してできた娘核種のひとつであり、かつ放射性の希ガスです。ガス体なので土壌から空気中に出てきて、人の呼吸によって体内に入って来ます。
 空気中のラドンは、当然のことながら、建物の中にも入って来ます。屋内のラドン濃度は屋外より高く、世界平均では屋内の濃度が屋外の約4倍、日本では約2倍です。また、コンクリートの建物は、コンクリート自体が砂や石由来の建材なので、それに由来するラドンも出てくるため、木造の建物より2倍近く高くなります。
 日本で空気中のラドン由来の内部被ばく線量が世界平均を大幅に下回る理由のひとつとして、日本の家屋には木造建築が多いためと考えられています。

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図5:空気中のラドンからの放射線

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図6:ウラン系列

 食品からの放射線

 食品には放射性物質が微量に含まれており、人は食品を通じて自然に存在する放射性同位体であるカリウム(40K)、鉛(210Pb)、ポロニウム(210Po)などを摂取しています。したがって、体内でこれらの放射性同位体からの内部被ばくを受けています。例えば、40K による被ばく線量は、体重60kg の平均的日本人で1年間に約 0.18mSv 程度となります。
 食物由来の放射線による内部被ばく線量の合計は、世界平均で1年間に約 0.24 mSv、日本の平均では約 0.41mSv です。世界の平均値より、日本の平均値が高いのは、日本人の食生活では魚介類の摂取量が多い傾向にあり、魚介類にはポロニウム(210Po) が比較的多く含まれているためと考えられます。
 カリウム(K)については、体内の塩分を低下させて血圧の上昇をふせぐなど、必要不可欠な成分です。天然のカリウムの0.01%は放射性同位体の40Kです。しかし、体内のカリウム量は代謝により常に一定に保たれるので、カリウムを多く含む食品を摂取しても代謝により体外に排泄され、体内のカリウムの量は一定に保たれます。したがって、体内の40Kの量も一定です。

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図7:体内・食品中の自然放射性物質

 一度に大量の放射線を被ばくした場合の人体への影響

 放射線は大変便利なものですが、誤った使い方をすると人体に重篤な影響をあたえます。放射線を利用するときは、少量であっても、あなどることなく十分注意をして正しく取り扱わなければいけません。

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図8:放射線をうけたときの
人体への影響